コラム

Vol.19

今回は、ダイバーシティ(多様性)の課題の1つとして注目されているLGBTへの対応についてお話します。

LGBTとは、同性愛や両性愛、性同一性障害といった人々の総称です。近年、このLGBTに対し、企業の在り方が問われるようになっています。その背景には、企業が活動の場をグローバルに拡大する中、性的少数者を含め公平な対応ができることが商品・サービスの開発や人材確保の面で重要な要素とみなされつつあることが挙げられます。特に、人口減少が進む日本においては、優秀な人材を確保する上でLGBTに該当する人が働きやすい職場環境を整備することは重要課題の1つとなっています。

また、国際オリンピック委員会(IOC)が、2014年9月に開催都市との契約に差別禁止条項を追加することを決定しました。この条項は、2022年冬季オリンピック以降から施行されますが、その前段である東京オリンピック・パラリンピックでは、商品やサービスを含めた日本の対応力に対し全世界から注目が集まることになると予想されるため、日本企業にとっても無視できない課題となってきています。

電通ダイバーシティ・ラボが2015年に全国7万人(20~59歳)を対象に実施した調査によると、日本でLGBTに該当する人は7.6%(=13人に1人)いるということが分かり、その市場規模は5.94兆円あると算出されています。こうした結果から、企業にとっては新たなビジネスチャンスの創出にもつながると考えられます。

実際の日本企業の取組みとしては、保守的と見られやすい金融業界、中でも証券業界の動きが活発です。例えば、野村ホールディングスでは、2015年8月から新卒採用で学生面接を担当する社員に対し、LGBTの基礎知識などを学ぶガイダンスを実施しているほか、全管理職を対象とした研修や新入社員向けのガイダンスでもLGBTに関する同社の取組み等について説明しています。米金融大手のゴールドマン・サックスでは、2005年に日本にLGBTの支援ネットワークを設立し、各事業部門の部長クラスも活動に参加しているほか、研修では職場での会話などLGBTに配慮したコミュニケーションの在り方などを学ぶ機会を提供しています。さらに、福利厚生も充実させており、通常の生命保険では被保険者の法的に認められた配偶者や親族しか保険金の受取人になれない場合が多い中、同社の法人契約の保険では同性のパートナーも受取人になられるようにしています。その他の業態では、ソニーが2016年2月から同性のパートナーを持つ社員を慶弔や育児・介護休暇、結婚祝い金など福利厚生の対象とし、全社員に通知しました。これまでプライバシーへの配慮もあり社員の要望があった場合に応じていましたが、今回、LGBTを福利厚生制度のなかで差別しないことを明確にしました。パナソニックでは、同年4月から同性同士でも結婚に相当する関係を認める方針を固めました。具体的には、社員向けの行動基準を見直し、同性パートナーを持つ社員を福利厚生の対象にすることも検討する方向です。パナソニックの場合、同社が最高位スポンサーとなっているIOCの五輪憲章のなかで「性的指向による差別禁止」を掲げていること等から見直しを決定したという経緯があります。このほかにも、ANAでは、社内の福利厚生のみならず、同社のマイレージサービスにおいて同性パートナーの登録を可能にするというLGBTに配慮したサービスの提供を2016年7月1日より開始しています。

東洋経済の調査『CSR企業総覧2016』によると、「LGBTに対する基本方針(権利の尊重や差別の禁止など)の有無」について173社(20.6%)が「あり」と回答しており、この数は、2013年から年々増加しています。今後、このLGBTに対する企業の取組みは本格化し、企業と社会の成長における重要なファクターとして位置付けられていくものと考えられます。