レポート

2023年4月-Vol.323

まとめ

今月のポイント

今月は日銀の金融政策決定会合が開かれます。3月に2名の副総裁が交代し、今月9日に植田新総裁が就任して初めての会合となることから、注目度が高まっています。昨年12月に長期金利の許容変動幅が拡大されましたが、その後も市場機能の改善がみられていないことから、総裁交代後のイールドカーブ・コントロールの修正・撤廃観測が燻っています。欧米での金融不安もあり、4月会合での政策変更の可能性は低下したとみられますが、会合後の公表文や総裁会見での発言が注目されます。

市場動向
国内債券 金融政策の正常化観測などから、金利に上昇圧力が掛かるものの、日銀による指し値オペ実施などから、10年債利回りは概ね許容レンジの上限で推移すると予想する。
国内株式 金融不安への警戒感は後退しているものの、FRB(連邦準備理事会)の金融引き締め政策が継続する中で、景気後退や業績悪化への懸念から、上値は重く一進一退の動きを予想する。
外国債券 <米国>FRBによる政策金利の高水準での維持などが金利上昇要因となる一方で、金融引き締めに伴う景気後退懸念や米国の金融不安などから、横ばいで推移すると予想する。
<欧州>インフレ抑制に向けたECB(欧州中央銀行)による利上げ継続から金利には上昇圧力がかかると予想するが、景気後退懸念などから小幅な上昇にとどまると考える。
外国株式 <米国>利上げサイクルが終盤に差し掛かっていることはサポート材料となる一方で、1-3月期決算は減益が予想され、一進一退の展開を予想する。
<欧州>景気の大幅減速は回避されると見込んでいるが、根強いインフレによりECBの利上げが継続するなか、金融引き締めの影響による企業業績の不透明感は残り、一進一退の展開を予想する。
為替市場 日米の政策金利差の拡大はドルの上昇要因となるものの、米国の景気後退懸念や日銀による金融政策の正常化観測などがドルの上値を抑制するため、対円で横ばいを予想する。ECBによる継続的な利上げなど米欧の金融引き締めペースの相違などから、ユーロは対ドルで緩やかに上昇すると予想する。

ポイント

今月は日銀の金融政策決定会合が開かれます。3月に2名の副総裁が交代し、今月9日に植田新総裁が就任して初めての会合となることから、注目度が高まっています。昨年12月に長期金利の許容変動幅が拡大されましたが、その後も市場機能の改善がみられていないことから、総裁交代後のイールドカーブ・コントロールの修正・撤廃観測が燻っています。欧米での金融不安もあり、4月会合での政策変更の可能性は低下したとみられますが、会合後の公表文や総裁会見での発言が注目されます。

今月の主なポイント
4/12 (米)3月CPI(消費者物価指数)・・・伸び鈍化が続くか
4/21 (日)日銀金融システムレポート・・・金融システム全体の状況を分析・評価
4/28 (日)日銀金融政策決定会合・・・上記参照
10年国債利回り

出所:Bloomberg

国内債券

指標銘柄/新発10年国債
3月の国内債券市場

3月の国内長期金利は、低下した。
日銀が現行の金融緩和政策の維持を決定したことや、欧米の金融不安を背景とした海外金利の低下などから、前月末対比で大幅に低下し、月末は0.32%で終了した。
国内長期金利は、前半、0.50%近辺で推移した後、8、9日開催の日銀金融政策決定会合において、現行の金融緩和政策の維持が決定されたことから、0.30%台まで大きく低下した。その後、欧米の金融不安を背景とした海外金利の急低下を受けて、一時0.24%と昨年12月のイールドカーブ・コントロールの許容変動幅拡大前の上限をも下回る場面もあった。後半、金融不安の後退から、海外金利が落ち着いた動きを見せるなか、0.30%近辺での推移が継続し、月末は0.32%となった。

イールドカーブについては、長期ゾーン中心に金利が大きく低下し、下方シフトした。信用スプレッドは、小幅拡大した。

4月の国内債券市場

4月の国内長期金利は上昇を予想するが、長期金利は許容レンジの上限を意識した展開が継続すると見込まれる。国内の物価上昇の高まりや日銀による金融政策の正常化観測などから、金利には上昇圧力がかかるものの、欧米の景気後退懸念や日銀による指し値オペ実施などから上昇幅は抑制されよう。

4月の債券市場のポイントは、①日銀の金融政策の動向、②米国金利の動向、③国内債券市場の需給動向と考える。

①<日銀の金融政策の動向>国内では、4月27日、28日に日銀新体制の下で、初となる金融政策決定会合が開催される。今後、日銀は景気や物価情勢を睨みながら、慎重に金融政策の正常化を進めていくと想定される一方で、イールドカーブ・コントロールの修正観測などは根強く残っている。会合後の植田新総裁の発言から、政策変更の思惑が強まった場合には、金利変動が大きくなることも予想される。

②<米国金利の動向> FRB(連邦準備理事会)は、3月に0.25%の利上げを決定したものの、欧米の金融不安などの影響もあり、5月に開催される次回FOMC(連邦公開市場委員会)で打ち止めになることが想定されている。また、金融市場において2023年内の利下げ実施も織り込まれるなか、今後発表される雇用統計やCPI(消費者物価指数)などの経済指標の結果次第では、金融政策の見通しを巡る思惑から、米国長期金利の変動幅が大きくなり、国内金利に波及することには注意が必要である。

③<国内債券市場の需給動向> 4月の国債入札スケジュールとしては、10年債(4日)、30年債(6日)、20年債(20日)が予定されている。引き続き、日銀による国債買い入れオペなどが相場の下支えとなる中、期初の生命保険会社など機関投資家による買い需要が注目される。なお、3月は超長期ゾーンの金利は大きく低下したものの、6日の30年債入札に向けては、超長期ゾーンの金利が上昇する可能性もあるだろう。

イールドカーブについては、緩やかにスティープ化すると予想する。信用スプレッドは、横ばいで推移すると予想する。

国内株式

日経平均株価225種東証株価指数(TOPIX)
3月の国内株式市場

3月の株式市場は、中国の景気指標の好転などから上昇した後に、欧米での金融不安を受けて反落したが、月後半は過度な警戒感が和らぎ反発し、日経平均株価で2.17%の上昇となった。

上旬は、中国の景気指標の好転や、水際対策の緩和に伴う中国からの訪日旅行者の増加への期待などから上昇し、年初来高値を更新した。中旬に入ると、米銀の破綻に続き、欧州銀行の経営不安により、欧米で金融システムの安定性に対して懸念が広がったことから、大きく下落した。下旬には、米欧の金融当局などによる迅速な対応により、金融不安への警戒感が和らいだことから、戻り基調に転じた。

業種別には電機、卸売、医薬品などが上昇し、保険、銀行、その他金融などが下落した。

4月の国内株式市場

米銀の破綻などに伴う金融不安への過度な警戒感は後退しているものの、FRB(連邦準備理事会)の金融引き締め政策が継続する中で、景気後退や業績悪化への懸念から、上値は重く一進一退の動きを予想する。

米銀の破綻に続き、欧州銀行の経営不安が広がる中で、米欧の金融当局などは、迅速な対応を実施した。米国では、破綻銀行の預金を全額保護することを発表するとともに、FRBによる新たな流動性の供給措置も開始している。また欧州では、金融当局が主導して金融危機の回避のために大手金融機関の再編を決定した。今後も金融システムに関する問題が再燃するリスクは払拭できないが、金融不安は一旦後退したとみている。

3月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、米銀の破綻があったものの、米国の金融システムは健全として、インフレ抑制のために0.25%の利上げを実施した。ただし、声明文では「継続的な利上げが必要」という文言が削除されたほか、ドットチャート(中央値)による2023年の政策金利予想は据え置かれるなど、従来に比べるとタカ派的な姿勢は弱まってきている。パウエル議長は、年内の利下げについて否定しており、金融引き締めによる景気後退リスクは高いものの、利上げについては最終局面に近づいているといえよう。

4月下旬から発表となる2022年度1-3月期決算は、インバウンド需要の拡大などにより小売や旅客、レジャーなど内需関連企業は回復が続くものの、電子デバイス・材料の生産調整などを受けて化学、電機など外需関連企業については減益が見込まれる。2023年度については、引き続き内需関連企業の業績拡大が予想される中で、半導体などを中心とした外需関連企業の業績が、年度後半にかけて底入れから回復に転じるかに注目している。

なお、2023年度のコンセンサス予想は増収増益となっており、決算発表で公表される会社計画が予想を下回ることによるガイダンスリスクは、株価の上値を抑える要因として留意点だろう。

外国債券

米10年国債ドイツ10年国債
3月の米国債券市場

3月の米国の長期金利は、米国で地方銀行が破綻し、金融システムへの不安が台頭したことでFRB(連邦準備理事会)の金融引き締めの継続期待が後退し、低下した。

前半、堅調な米経済指標や、FRBのパウエル議長が3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.5%の利上げを行う可能性を示唆したことなどを受けて、一時4.0%台まで上昇した。しかし、中旬に米国で地方銀行が破綻し、金融システム不安への懸念が高まると、FRBの金融引き締めへの期待が後退し、3.2%台後半まで低下した。その後、米国の金融当局の迅速な対応などから金融システムへの不安が後退し、月末は3.4%台後半となった。

イールドカーブは、FRBの利上げ期待が後退したことなどからスティープ化した。

3月の欧州債券市場

3月の欧州(ドイツ)の長期金利は、金融システム不安が意識される中、ECB(欧州中央銀行)による金融引き締め継続への期待が後退し、低下した。

ユーロ圏の堅調なCPI(消費者物価指数)などを受けて、ECBの利上げ期待が高まったことなどから、初旬に2.7%台後半に上昇する場面があったが、その後は米銀の破綻を受けた金融システム不安への警戒が欧州にも波及し、一部欧州銀行への警戒感が高まり、一時1.9%台まで低下した。しかし懸念されていた銀行の買収案が合意に至り、金融システム不安が後退したことから値を戻し、月末は2.2%台後半となった。ドイツ国債のイールドカーブは、ECBの利上げ期待が後退したことで、スティープ化した。周辺国国債とドイツ国債の利回り差は、ECBの金融引き締め期待が後退したことから、小幅に縮小した。

4月の米国債券市場

4月の米国の長期金利は、FRBが長期間に渡って政策金利を高水準で維持する姿勢を示していることなどが金利上昇要因となる一方で、金融引き締めに伴う景気後退懸念や米国の金融不安などが金利低下要因となり、金利は横ばいで推移すると予想する。

4月の欧州債券市場

4月の欧州(ドイツ)の長期金利は、ECBによる利上げ継続から、金利には上昇圧力がかかると予想するが、金融引き締めによる景気後退懸念から、小幅な上昇にとどまると考える。ECBによる量的引き締めなどから、周辺国の対ドイツ国債スプレッドは緩やかに拡大すると予想する。

外国株式

米国S&P500指数ダウ工業株30種平均ドイツDAX指数イギリスFT-SE(100種)指数香港ハンセン指数
3月の米国株式市場

3月の米国株式市場は、S&P500指数で3.51%の上昇となった。地方銀行の経営破綻を契機とした金融システム不安から中旬にかけて大きく下落した。その後は、金融システム安定化に向けた当局の迅速な対応を背景に、懸念が徐々に緩和されたことやFRB(連邦準備理事会)による早期の利下げ期待から上昇した。セクターでは、情報技術、コミュニケーション・サービス、公益などが上昇する一方、金融、不動産、素材などが下落した。

3月の欧州株式市場

3月の欧州株式市場は、下落した。欧米の金融システムに対する不透明感が強まったことに加え、高止まりするインフレ率を背景としたECBによる積極的な金融引き締め姿勢が重石となった。国別では、デンマーク、ポルトガル、オランダなどが上昇する一方、オーストリア、ノルウェー、英国などが下落した。セクターでは、情報技術、公益、生活必需品などが上昇する一方、不動産、金融、エネルギーなどが下落した。

3月の香港株式市場

3月の香港株式市場は、上昇した。中旬にかけて欧米の金融システム不安を背景としたグローバルでのリスク回避姿勢が重石となり下落したが、その後は、金融システムに対する過度な懸念が後退したことに加え、中国のEコマース大手企業の事業分割計画が伝わると、中国当局によるテクノロジー・セクターに対する規制圧力の更なる緩和につながるとの見方から上昇した。

4月の米国株式市場

4月の米国株式市場は、横ばいを予想する。欧米の金融不安は金融当局の迅速な対応により、落ち着きを見せているが、当面は注視する必要があろう。インフレが鈍化するなか、利上げサイクルが終盤に差し掛かっていることはサポート材料となるだろう。一方で、4月中旬から本格化する1-3月期決算は減益が予想され、下方修正が継続するなか、一進一退の展開を予想する。

4月の欧州株式市場

4月の欧州株式市場は、横ばいを予想する。中国経済の回復や家計、企業向けのインフレ対策により、景気の大幅減速は回避されると見込んでいる。一方で、根強いインフレによりECBの利上げが継続するなか、金融引き締めの影響による企業業績の不透明感は残り、一進一退の展開を予想する。市場の変動要因としては、インフレ高止まり、地政学的リスク、金融不安などが挙げられる。

4月の香港株式市場

4月の香港株式市場は、小幅な上昇を予想する。中国では、ゼロコロナ政策の緩和以降、消費に回復が見られることに加え、緩和的な金融政策が継続することや、インフラ投資、内需拡大策、デジタルエコノミーへの支援などから業績改善が期待され、小幅な上昇を予想する。

為替動向

為替(ドル/円)為替(ドル/ユーロ)為替(ユーロ/円)
3月のドル/円相場

3月のドル/円相場は、米銀の破綻などにより金融システム不安が台頭し、FRB(連邦準備理事会)の金融引き締めへの期待が後退したことなどから、ドル安円高となった。

前半、堅調な経済指標を受けて、FRBのパウエル議長が金融引き締めへ積極的な姿勢を示したことで、米国の長期金利が上昇し、一時137円台後半まで上昇した。しかし、中旬に、米銀の破綻を受けて金融システム不安が台頭すると、FRBの利上げ期待が後退し、一時129円台後半まで下落した。その後は、金融危機への不安が後退し、月末は133円台前半となった。

3月のユーロ/ドル相場

3月のユーロ/ドル相場は、米銀が破綻し金融システム不安が台頭したことで、FRBの利上げ期待が大きく後退し、ユーロがドルに対して上昇した。月末は1.08ドル台後半となった。

3月のユーロ/円相場

3月のユーロ/円相場は、ユーロ高円安となった。ドルに対して円・ユーロは上昇したものの、円の上昇幅が小さくなったため、ユーロ高円安となり、月末は144円台後半となった。

4月のドル/円相場

4月のドル/円相場は、横ばいで推移すると予想する。日米の政策金利差の拡大は、引き続きドルの上昇要因となるものの、米国の金融引き締めに伴う景気後退懸念や日銀による金融政策の正常化観測などがドルの下落要因となり、横ばいで推移すると予想する。

4月のユーロ/ドル相場

4月のユーロ/ドル相場は、小幅上昇を予想する。インフレ抑制のためのECB(欧州中央銀行)による継続的な利上げなど、米欧の金融引き締めペースの相違から、ユーロは緩やかに上昇すると予想する。

4月のユーロ/円相場

4月のユーロ/円相場は、小幅上昇を予想する。ユーロはドルに対して上昇する一方で、ドルは円に対して横ばいとなるため、ユーロ/円は小幅な上昇を予想する。

虫眼鏡

『子供の夢との向き合い方』

読者の皆さまは、小学生の頃大きくなったら何になりたかったでしょうか?

先日公表された、2022年12月に全国の小・中学生と高校生3,000人を対象とした「第一生命『大人になったらなりたいもの』アンケート」調査によると、小学生男の子の「大人になったらなりたいもの」第1位は、なんと会社員でした。会社員は小学生女子を除く全ての世代別・性別カテゴリーで第1位でした(小学生女子の1位はパティシエ)。中学生、高校生と大人に近づくにつれ、将来なりたい職業に対する関心の対象が、憧れから現実的な仕事へシフトすることは、自然のことだと思います。子供が夢に向かってチャレンジしていく過程で、夢と現実のギャップの大きさに気付き、現実的な選択肢へ軌道修正する人は多いからだと思います。しかし小学生の時はどうだったでしょうか?またこの結果に対し、どのような感想を抱かれましたでしょうか?読者の皆さまは、男性であればプロスポーツ選手、パイロット、お医者さんに警察官。女性であればパティシエなど食べ物屋さん、アイドルや歌手、お花屋さん等、テレビや生活する中で、身近な憧れの対象を、将来の夢としていた方が多いかと思います。筆者は物心付いた時から、毎晩テレビで阪神タイガースの試合を観戦していたこともあり、自分も大きくなったら阪神タイガースの縦じまユニフォームに袖を通し、甲子園球場で活躍するプロ野球選手を、高校生の時まで夢見ていました。

さて同アンケート調査は1989年以降毎年実施されており、毎年のランキングが世相を表しているということで、注目されていると言われています。小学生男の子のカテゴリーであれば、サッカー選手と野球選手が調査開始以来、多くの年で上位3位に入る「2強」状態ですが、日本人ノーベル賞受賞者が話題に上った時は、博士・学者が2強に割ってランクインしています。また年によっては人気ドラマの影響を受け刑事・警察官やお医者さんが上位にランクインしています。最近ではゲームクリエイターやユーチューバーといった新顔が上位ランクインしています。

しかしコロナ禍を経て、小学生のなりたい職業ランキングも変化しました。男の子部門は1992年以降トップ10入りの実績がない会社員が、2020年の調査から3年連続で1位に選ばれました。一方でコロナ前まで首位争いの常連であったサッカー選手は3位、野球選手はトップ3の圏外となりました。また女の子部門ではパティシエが3年連続で1位となりましたが、調査開始以来トップ10入りすることがなかった会社員が、2020、2021年の調査で4位となり、2022年には3位へランクアップしました。コロナ禍で日常生活が大きく制限されたことが、子供の夢に対する考え方に影響を及ぼしたのでしょうか。

これに対し調査元は、コロナ禍で在宅勤務の導入が進む中、会社員の親を持つ子供たちが、親が働いている姿を目の当たりにし、会社員という職業を身近に感じた子供が多かったのかもしれないと分析しています。家で真剣に仕事をしている親の姿は、休日に見せる雰囲気と違い、子供の眼には格好良く映っているのでしょうか。小学生が大人になったらなりたいものが会社員というのは、今時の子供は夢を失ってしまったのかと、悲観的に捉えられる節があります。しかしことわざ通りに、親の背中を見て子は育ち、親が在宅勤務している姿に憧れて、会社員になりたいと言っているのであれば、会社員である筆者にとっては喜ばしい変化だと感じています。

しかし、自身の夢や目標に関連する別の意識調査では、違った姿が見えてきます。その意識調査は、日本財団が実施している、日本を含む6ヵ国(アメリカ、英国、中国、韓国、インド、日本)の、18歳前後の男女1,000名を対象にしたアンケート調査です。ここでは目に留まった3つの意識調査結果(2022年3月)を紹介します。まず1つ目は、「将来の夢を持っている」という質問に対し、「はい」と回答した日本人の割合は59.6%と、6ヵ国中最も低い結果となっていました。2番目に低かった国でも78.3%でしたので、日本は相対的に突出して低いと言えます。次に2つ目は、「多少のリスクが伴っても、高い目標を達成したい」という質問に対し、「はい」と回答した日本人の割合は44.9%と、こちらも6ヵ国中最も低い結果となっていました。最後に3つ目は、「自分の将来が楽しみだ」という質問に対し、「はい」と回答した日本人の割合は57.8%と、こちらも6ヵ国中最も低い結果となっていました。この傾向はコロナ前の調査でも同様でした。しかし、大人になったらなりたいもの第1位が会社員という前述の調査結果と、無関係ではないように思います。

日本は、諸外国と比べて深刻な貧困問題を抱えている、または極端に言論や情報が統制されている訳ではありません。子供が自分の意志に関係なく、夢を追いかけることが制約されるケースは少ないと思います。言い換えれば、子供が夢を持つことに対する制約は少なく、諸外国と比べても選択肢は豊富に持つことができる環境かと思います。それにも関わらず日本の子供が諸外国と比べて、将来の夢を持つ割合が低く、チャレンジ精神が乏しく、そして将来に対して楽観的になれない理由は何でしょうか。

背景には、文化・教育システムの違いがあると思います。ここでは子供との接し方の違いついて感じた自身の経験を書きます。筆者には現在12歳の長男と9歳の長女がおり、過去に4年間家族帯同でロンドン駐在したことがあります。駐在期間中は、長男のサッカー活動を通して、同じサッカー少年を子に持つ外国人家族や現地校に子供を通わせる近所の日本人家族と交流する機会に恵まれました。振り返ると、英国人に限らず、外国人の親や先生、コーチは子供のことを兎に角よく褒めていました。例えば現地校での発表会では、そのクオリティに関わらず「Well done」と、極端に感じる程褒めると聞いたことがあります。またサッカーのコーチは、子供に叱責することは殆どなく、練習から一つずつのプレーに対して、様々な表現方法で子供を褒めていました。褒め言葉の、種類の多さに驚かされました。また親は、サッカーに限らず、子供の夢やチャレンジしたいことに対して尊重し、子供の可能性を信じて献身的に協力していたように感じました。

最後に、これらのアンケート調査結果や背景を踏まえ、自身の「子供の夢との向き合い方」について考えたいと思います。まず子供には、自分の好きなことや憧れを将来の夢とし、自分の可能性を信じ、それを現実のものとするために、チャレンジする人生を歩んで欲しいと思っています。長男は幼稚園の頃からサッカーを習い始め、サッカー選手になることを将来の夢として持ち続けています。コロナ禍は息子の価値観に影響を与えたようで、ロックダウンにより、外出およびサッカー活動が自粛となった時は、在宅勤務している筆者の姿に憧れることなく、ユーチューバーになりたいと言っていました。

子供に対する接し方を振り返ると、子供の可能性を信じたい思いとは裏腹に、夢を叶えることは、如何に難しいことかを子供に対して必死に説明していました。サッカーについては、夢を叶えて欲しいという思いが強いせいか、期待と愛情が歪んだ形で出てしまい、褒めることより、もっとこうしろと自分でも出来ないことを要求しがちになっていました。それだけでなく、将来現実的な選択肢へ軌道修正する時に備え、文武両道を求めて家庭教師まで雇ってしまいました。サッカー選手にしろ、ユーチューバーにしろ、将来それを職業に出来る人は限られていて、さらにそこで成功するには一握りの人間のみということを知っているからです。子どもの夢を尊重し、可能性を信じて全力で応援しているつもりが、実際はその逆で、現実的な夢や職業選択へ向けてレールを敷いているようです。将来の選択肢を広げるために良かれと思ってしていることが、逆に子供の夢に制約を与えていたのかもしれません。

最近はコロナ禍を乗り越え、子供に夢と希望と与えるニュースが増えてきました。大きなリスクを背負いながらコロナ禍で奮闘する医療関係者の姿に感銘を受けた方は多いと思います。またスポーツ界では格上であるドイツとスペインに劇的勝利を収め、決勝トーナメント進出を果たしたサッカーワールドカップの日本代表の活躍、同じく、野球の世界一を決めるWBCで、劇的勝利の連続で世界一に輝いた日本代表の姿は、多くの人の心に刻まれたかと思います。こうした明るいニュースを糧に、将来の夢を持ち、明るい未来像を描く子供が増えることを願いつつ、それを後押しするような、子供の夢との向き合い方を、自省を踏まえて模索したいと思います。